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齋藤 顕一さいとう けんいち
株式会社フォアサイト・アンド・カンパニー
代表取締役 -
鈴木 貴子すずき たかこ
エステー株式会社
会長 -
萩原 邦章はぎはら くにあき
萩原工業株式会社
相談役
豊富な経験や知識を生かし、当社の発展に貢献してもらうことをイメージして、当社では社外取締役をボードブレーン(Board Brain、通称BB)と呼称しています。一般的には外部の目として「不祥事の防止」を役割とする場合が多いのですが、当社では透明性の高い独自のガバナンスを形成しているため、「持続的な成長・企業価値の向上」への貢献に重きを置いています。その社外取締役各氏に「当社はどうあるべきか」そして「社会課題に対する改善点や取り組み」などについて話を伺いました。
第60期の取り組みについて教えてください。
萩原
毎月の経営会議では具体的な企業を例に挙げ、企業の成り立ちや強み、経営者におけるリーダーシップの取り方をケーススタディとしてお話しています。
経営会議に出席するマネージャー層に対し、当社のトップマネジメントに対してどのように考えているか、その中で自身はどう受け止め、成長していくのかを考えるきっかけになればいいと考えています。企業経営において、いかに良い商品を採用するか、どのようにお客様への利便性を高めるか。現在のマネジメント層にも大胆な戦略と繊細な経営者としての心持ちを養ってもらいたいと考えています。
鈴木
当社社員が日々接しているのはBtoB市場がほとんどであるため、私が日々身を置いているBtoC市場で起こっていることについて臨場感を持ってお伝えできればと考え、経営会議で提言してきました。資源価格の上昇やウクライナ侵攻などで外部環境が大きく変化する中、メーカーも生き残りをかけて、対策を講じています。例えば、消費財市場では小売業が利益を確保するため、安価なプライベート・ブランド(P B)商品を製造することがありましたが、今や「安かろう、悪かろう」のプライベート・ブランド(P B)商品は市場で通用しなくなっています。BtoB市場では価値の訴求を掲げながら、なおかつ納得性のある価格で価値を高める動きが強くなっていると感じています。また、リテールDXについても進んでいる企業とそうでない企業が顕著です。マスマーケティングから個別ニーズへのマーケティングにシフトする中、リテールDXとそれに対応するメーカーの動きについて、具体的な企業の事例を踏まえ、ご紹介いたしました。
齋藤
現在の日本はGDPも成長しておらず、企業も売上を伸ばすことができなくなり、いわゆる成長できない国になったと思います。その中で企業は収益性を確保するために、経費削減やリストラを実施するのですが、本来は売上を伸ばすことで収益性が増加するので、正しい施策を行っているわけではないと言えます。もちろん、企業は業績を高めるための戦略(売上増大策)を作れば良いというわけではありません。正しい戦略を立案・実行して成果を上げるのは「人」ですので、各現場において、立案された戦略の意味を正しく解釈して、成果実現のために必要な取組を実践することが大事になります。これらの戦略や戦略を実現する上でのインフラ施策を立案するとはどのようなことか、また効率的に成果を上げるための考え方や、その行動の仕方について出来るだけ皆様にお伝えしたいという目的で前年に続き、「つぶやき」というテーマで提言を行いました。

業界における先入観を打破して、これからトラスコ中山はどうあるべきか、
お考えを教えてください。
鈴木
若手社員のさらなる活性化、自発的に湧き上がるような活動を期待したいと考えています。以前エステー株式会社における若手育成のお話をした際、反響があったことから、当社は現在、若手社員がどのようなことを考えているか非常に興味を持っています。コンスタントに行うことは難しいかもしれませんが、若手社員育成の一環として社外取締役との交流の場を持ち、若手社員の考えを引き出せるような環境整備を行うことで、当社にとってさらなるパワーが生まれるのではないかと感じています。
また、中期戦略として掲げている「TRUSCO HACOBUne プロジェクト」は業界と一線を画すDX推進プロジェクトです。このビジネスモデルを活用し、物流プラットフォームの構築や、業界におけるDXのコンサルティングを行うことは当社のビジネスの一つとなるのではないかと考えています。
また、「ユーザー様直送」の仕組みをeビジネスルートだけでなく、BtoCの領域へ広げられるのではないかと思います。例えば、ホームセンタールートのように、これまでリアルが主戦場だったセグメントのEC参入をさらにサポートすることで、事業の領域を今まで以上に拡大できるのではないでしょうか。
齋藤
日本の企業は、時代は変化しているのに、相変わらずプロダクトアウトで事業改善に取り組んでいると感じています。さらには、過去のバブル崩壊やリーマンショック、新型コロナ感染症拡大などにより、次の成長を目指して積極的に投資するよりは、確実性が高く、必要だと思うもの以外には投資しないようになってきています。当社のサプライチェーン全体の最適化を考えると、ユーザー様の満たされていないニーズをインタビューによって捉え、仕入先様の商品開発に活かすことが非常に重要です。また得意先様へは、ユーザー様のニーズに対する解決提案活動を支援することで、得意先様の売上高増加にも寄与できます。ハードルは高いですが商品の提供に併せ、価値の提供を業界に先んじて行うことで、事業拡大がより加速すると考えています。提供すべき価値というのは自社の経験で考えるものではなく、得意先様やユーザー様から学ばなければなりません。プロダクトアウトではなく、得意先様やユーザー様の満たされていないニーズを追求し、顧客中心主義で取り組む必要があるのです。

萩原
メーカーはBtoB市場での取引が多いですが、いかにユーザー様のニーズ、ウォンツ超えるベネフィットをBtoC市場で感じていただけるかが大切です。プロダクトアウトではなく、いかにマーケットインで商品開発を行うかが、商品の差異化を図るために非常に重要であると考えています。当社は卸売という立場であるため、今後はさらにサプライチェーンの橋渡しを求められるのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症の影響でWEBが普及していますが、時にはFace to Faceで人間関係を構築することで、ユーザー様の困りごとを解決できると思います。
若手から湧き上がるアイディアをさらに活性化するためには、若年層への教育や意識醸成が必要でしょうか。
鈴木
そう思います。例えば、メーカーですと次世代型の商品企画コンテストを開催したりと、若手が活性化するような取組みを行うことがあります。当社でも若手社員を盛り上げ、次世代の経営に繋げていくような動きが出来ればと期待しています。
齋藤
若手社員の活用には3つのことが必要です。1つ目は、若手が発言・提案することを受け入れる企業文化です。若手社員がアイデアを出した時、否定したり単に疑問を呈するだけではなく、まず受け入れて一緒にブラッシュアップする能力が上司や経営者に必要です。2つ目は、より多くの知識を身につけてもらえる機会を持ってもらうことです。これらは本から学ぶとか、同じ企業の先輩社員だけから学ぶのではなく、考え方の異なる他の業種の人たちから学ぶことです。そうするとより広い視野で物事を考えることができるようになります。3つ目は、新しい能力やスキルを学ぶことです。得意先様やユーザー様のニーズを理解するために質問力や討議力を学ぶ必要があります。また、自部門や会社の業績や、参入している市場に関する基本的なデータの収集法や分析方法を知り、なにが起こっているのかを客観的に理解できるスキルも必要でしょう。これらの力を養うことで若手社員の可能性が大きく広がると思います。学問として学ぶのではなく、実学として経験することが大切です。
萩原
当社において正しい質問をするためには、メーカーとの対話も重要だと思います。萩原工業株式会社においてもユーザー様に対して行いたい施策を常に考え、先述の通りマーケットインで商品開発を行っています。当社は卸売であるため、仕入先であるメーカーがどのような開発テーマを持っているかなど、各メーカーの棚卸がどれだけできているかが大切だと思います。一人ひとりがハングリー精神を持って情熱的に仕事に取り組んでもらいたいですね。
今後の社会課題や環境問題において、どのようなことが経営に求められるのか、
改善点や伸ばすべき取り組みなどについてのお考えを教えてください。
鈴木
プライベート・ブランド(PB)商品を開発するに際し、一本筋を通した差別化、独自性が欲しいと考えています。例えば、環境配慮型で他社にない商品の開発を行い、一部の商品からでもブランディングを図る取組みが出来ないかと考えています。また社会課題と言えば、やはり経営会議に参加する意思決定層へ女性の登用を進められればと思います。
萩原
ウクライナ侵攻や円安などの外部要因により、モノづくりにおいて国内回帰が起こっています。改めてトラスコ中山としてモノづくりの拠点がどのように変化するのか、しっかり先を読み、施策を講じるべきであると思います。また大きな市場であるアメリカやヨーロッパのマーケットにも注視していく必要があります。円安は当面続くと推測されるため、輸入がコストアップになる可能性が高い。海外進出が騒がれた20年前とは違った観点からの、大きな海外生産のうねりが出てくると思います。今後は、日本の製造業がどのような戦略を持ってモノづくり現場を変えようとしているのかを注視することが重要です。産業の大きな変化に乗り遅れないように、当社として対応していくべきであると考えています。

齋藤
女性の能力を活かすことは、これからの時代では不可欠になると思います。女性を管理職に登用するに際し、「女性を管理職にしなければならない」という意識ではなく、管理職になれるポテンシャルのある社員を育成した結果、「能力のある人材が偶然女性であった」ことが正しい登用方法だと考えています。女性だからと無理やり管理職にすると能力以上の仕事を要求することになるため、負担となりアンフェアな取り組みになるでしょう。管理職に期待される能力やスキルをまずは明確にして、欠如しているものを強化するためにはどのような育成方法を取るべきかまず考えて実践する必要があります。知っていることを教える必要はなく、知らないことや自分で学べないことを教えることが大事になるのです。もちろん、優秀な女性管理職を受け入れる風土を作ることが大前提になります。
第60期 社外取締役インタビュー
当社では社外取締役のインタビューを定期的に実施しています。
「今期(60期)の取り組みや活動について」「業界における先入観を打破して、これからトラスコはどうあるべきか」など、さまざまなテーマを設定し、それぞれの視点で議論いただきました。